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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
『再婚とか、考えたことないの?』
『うーん、どうだろう……』
『私に気を使わなくていいよ』
そう言いながらも麻衣は、父が一度も再婚を考えたことがないと言って欲しかった。
『そうだなぁ、
もちろん生活の不便さもあったし、
まだ小さかった麻衣にとっても
母親の役割をしてくれる人が居たほうが
いいんじゃないかと思った時期はあったかな。
でも、できた娘のお陰で、
お父さんは楽をさせてもらえた。
それにやっぱり、
お母さんより好きだと思える人は、
ついに現れなかったな』
視線をそらして恥ずかしそうに微笑む父と話していることに、麻衣は喜びを感じた。
独り子の自分にとって肉親はこの人しかいないのだと思うと、いますぐ父に寄りかかっていきたくなった。
父のグラスは氷がとけて、残りわずかなアイスコーヒーを薄めてしまった。
麻衣はアイスティーを飲み干すと、ひざの上に両手を置いて背すじを伸ばし、父に微笑んだ。
『私、もう大丈夫。
お父さん、
そろそろ行こうか』
勘定書きをつかんで立ち上がった父とともに席を立つと、聴き覚えのある曲が流れた。
『お父さん、これ、なんて曲だっけ?』
首をひねる父の向こうで、総白髪のマスターがにこりとして、
『イン・マイ・ライフです』と教えてくれた。