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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
母が亡くなってからは、父の役に立とうと忙しく日々を送ることで本当の哀しみから自分を遠ざけていた。
そうすればほんのわずかでも、あの不浄な戯れ事が許されるような気がしたからだ。
本当は怖かった。
母の代わりを務めることで私は、許しを乞うた。
そして、母に褒められたかった……。
麻衣は涙を拭こうとしたが、ハンカチはさっき水に浸して墓碑にのせてしまった。
手首の内側で目元をふきながら、父の心配が、圭司やそれ以外の同居している仲間に向いてはいけないと思った。
『心配しないでね。
いろいろ考えてると、
ときどき泣けてきちゃうの。
私、大丈夫だから』
わざと無邪気をよそおって言い、麻衣はいちど肩の力を抜いた。
『二十五の娘にほろほろ泣かれて、
何食わぬ顔でいられる父親は
世間には少ないと思うけど、
まぁ、お母さんとの内緒話なら、
お父さんは出しゃばらずにいるよ』
父の声は優しかった。
父のどこまでも深そうな懐に、いまの自分の気持ちをあずけたくなった。
甘えかかろうとする心を抑えられず、麻衣は降参することにした。
『お母さんに相談したのはね、
お母さんは私を産んでくれたけど、
私はお母さんにみたいなことがしたくても
どうしてもできないわって……』
父は麻衣に体を向けた。
『私は女だもの、男の人を好きなるわ。
好きになった人の子供が欲しいって、
そう思うのは当たり前でしょう?
それって贅沢なことなのかなぁ……』
贅沢でもなんでもない、至極当然のことなのは麻衣にも充分わかっていることだったが、麻衣はあえてそう考えてみた。
けれども、どのような事情が二人のあいだにあったとしても、女が男を愛すれば、その男の子供を産み育てたいと望むのは、やはり当たり前のことなのだと思えた。
父は麻衣をじっと見つめた。
娘がこぼす心情から決して目をそらしてはならないというように、黙って麻衣を見ていた。