この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
『この世に存在する数々の問題は、
その問題が発生したときと
同じ考え方では解決できない――――。
昔、そう言った物理学者がいたよ。
お父さん、この言葉が好きでね、
塾の子たちにも言ってる。
非常にクリアで、小気味がいい。
それこそが人生だと思うんだ。
生きてれば、人は悩んだり苦しんだりする。
そんなときどうしようかって考えるだろ?
でも、
そのときに持ってる知恵や経験だけでは、
どうにもならないことが多いんだよ。
だってそうじゃないか、
持ち合わせた知恵で解決できるんなら、
そもそもそれは問題じゃないんだから』
『じゃ、いまの私の悩みは解決しないわ。
知恵もないし、できないことだもん。
この先も見込みはないわ』
話しながら麻衣の声は尻すぼみになった。
父は、頭の上のハンカチをもう一度手桶にひたして広げ、墓碑の上にそっと載せた。
大きくうなずいて、麻衣に微笑みかけた。
『その通り。¨同じ考え方¨のままではね。
でも、何のために時間があるんだい?
麻衣はまだ若い。
まだまだたくさん時間があるんだ。
時間が解決する、なんて言うと、
いまの麻衣には辛いかもしれないな。
だけど、その言葉の意味は大きいよ。
どんな大逆転劇も、
同じ時間には起こらないんだ。
そこには必ず時差がある。
状況を変えるには多かれ少なかれ
時間が必要なんだよ。
それに時間は前にしか進まないんだ。
お構いなしにね……』