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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
それを可能にしたのが、世界的なインターネット網の普及だった。
すでにブランドイメージを確立させた有名ブランドは、日本の商社とのライセンス契約をさっさと終了させて、インターネットを最大限に利用した市場拡大手法をとるようになった。
そういった海外ブランドの販売戦略の変化に対抗するべく、日本の商社はブランドの株式を大量取得し、経営に参画することでブランドとの関係強化を図りはじめた。
ブランドの買収である。
ライセンス契約打ち切りの懸念がなくなることで、長期的な計画でブランドビジネスを展開できるようになったが、投下した莫大な資本を回収するためには、日本国内だけでなく、アジア市場に販路を拡大して収益をあげなければならない。
早苗の事業部で、フレデリックミシェルのプロジェクトが動き始めたのは二年前だった。
当時、早苗の所属するアパレル事業部は、現行の海外高級ブランドとのライセンス契約満了を間近に控えていて、新たなブランドライセンス獲得を模索し始めていた。
プロジェクトには社業の伸長がかかっていた。
その責任者に早苗を抜擢したのが部長だった。
以前から早苗の美貌と明晰な性質を買っていた部長は、早苗がエネルギー事業部の河村と不倫関係にあったこと、それが悲恋に散ったことも知ったうえで、早苗に大仕事を任せた。
崩れかけていた早苗を、なんとか自力で立ち直らせるための荒療治であった。
海外勤務を希望していた早苗にとって、リーダーに抜擢されたことは本来願ってもないチャンスと言えたが、それは、河村との不倫恋愛にピリオドをうったばかりの、日々を悶々と過ごしていた早苗には精神的に過酷な任務であった。
まだまだ河村への想いを引きずっていた早苗が、失敗を怖れず、なかばヤケクソで事業に取り組めたのは、失敗すればいつでも会社を辞する覚悟ができていたからだった。
他の何をも踏みしだいて目標に向かってとことんもがけば、過去の自分と何ひとつ関係のない、新しい自分を見つけられるかもしれない――――。
その思いだけが当時の早苗を支えていた。