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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
コンテを片手にアイテムの最終チェックをしていた佐和は、気の強そうな二重まぶたでキッと圭司をにらんだあと、無理やり唇のはしを持ち上げて笑おうとしたが、それは笑顔にはほど遠いものになった。
午前の撮影現場で足止めされ、圭司はその巻き添えを食らう形で遅刻したのだが、佐和が気に入らなかったのは遅刻ではなく、圭司の午前のスケジュールを押さえたのが、同じ編集部内の女性編集者だったからだ。
佐和は過去、自分の企画をこの女性編集者に何度か盗まれたことがあった。
他にも、佐和が押さえたスタイリストやカメラマンに二重オファーをかけてきたり、撮影スタジオをかぶせてきたりと、陰湿な嫌がらせに悩まされてきた。
嫌がらせの発端は、本来この女性編集者が受け持つはずだった企画が、編集長の独断で佐和に担当変えされたことであった。
その逆恨みによる女性編集者の執念深い報復は五年近く続いている。
当時この女性編集者と、妻子ある編集長が恋仲にあったことも逆恨みの大きな原因だった。
佐和はその後、三年ほど編集長との蜜月を過ごしている。
がちゃがちゃと機材の準備をする圭司に、ボールペンでクリップボードをはたいた佐和が不服そうに言った。
『誰かさんの足止めかしら?』
『違うよ。道が混んでたんだ。
事故もあってね。いやぁ大変だった。
遅くなって申し訳ない』
無難な方便で佐和の機嫌をとりなそうとする圭司に、佐和と女性編集者の長年の確執を知るノリコや、ヘアメイクの愛子も口元を隠しておかしがった。
彼女たちにも同じ経験がある。
撮影が終わる時間にあわせてケータリングを寄こすのがその女性編集者のやりくちで、それは現場スタッフをねぎらうというよりも、次の仕事先に向わせないという意味合いのほうが強いのだった。
『ねぇねぇ圭司クン、
あっちのカツサンドおいしかったでしょ?』
愛子が茶化して言うと、
『やだなぁ。渋滞だよ、ジュータイ』
圭司はにこりと笑ったあと、片目をつむって舌をだした。
それから、おずおずと佐和のとなりにいってコンテに目を通し、ページデザインや構成を確認したあと、タブレット画面に指を滑らせて撮影アイテムをチェックした。
厳しく据わった佐和の目をちらっと見て、『じゃ、始めましょうか』と微笑む圭司に、佐和は、しょうがないわねというふうに肩を落とし、やっと表情をゆるめた。