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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
第十章 揺らぐ鬼火
蔓(つる)に巻かれた石組みの門柱から奥の木立へとつづく石畳の両脇には、花期を迎えたマリーゴールドが今が盛りと咲き乱れている。
陽射しのこぼれる不揃いな石畳を行くと、安藤佐和に教えられたとおり、空抜けの緑美しい芝生の庭が圭司の視界に開いた。
庭を正面にして建つ大きな洋館は植え込みに囲まれ、漆喰(しっくい)塗りの壁には二階の窓まで蔦(つた)が這いあがっていた。
旧華族が所有していたという洋館は、華族制度の廃止以降、所有権を転々と移動したのち、由緒ある資産家の手に渡り、現在はハウススタジオとして利用されている。
四季咲きのバラのアーチを駆け足でくぐり抜け、圭司は洋館へと急いだ。
アプローチの脇にある藤棚の下で、ヘアアレンジを済ませた目下売り出し中の若いモデルが、御つきのマネージャーが差し出すライターの火にくわえた煙草の先を近づけながら、ちらっと圭司をにらんだ。
雑誌で何度も目にしているはずなのに、圭司は、若い女性モデルの名前をどうしても思い出せなかった。
それに軽く会釈して洋館の中をのぞいた圭司に、最近すっかり顔なじみになったスタイリストのノリコが人差し指を立てた拳を側頭部にあて、¨佐和の機嫌が悪い¨と合図してきた。
『遅くなりましたぁ、どうもすみません』
一時間遅れて到着したことを圭司が勢いよく詫びると、ノリコがそれをかばうように、
『カメラさん入られまぁす』
と、おどけた調子で場を和ませた。