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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
この男は、人を惹きつける何かを持っている―――。
佐和は、七年歳下の圭司にカリスマを持つ人間特有の、場の空気を支配する力を感じていた。
ノリコや愛子やそれ以外のスタッフもみな、同じようなものを感じているようで、撮影現場にはいつも圭司が現れるのを待つ雰囲気があり、それは一種魔術的でさえある。
人柄は才能のひとつで、それはすべての能力に優先する才能なのだと、圭司を見ていて思う。
他人に慕われる穏やかな渦のようなものを持っていて、相手の心をそそる表情と口調で話し、威張ることもなく物言いにはデリカシーが備わっている。
己の信条を強固に持つが、他人のそれには固執せず広漠にうけいれて、周囲の人間に圧迫感を与えないから、圭司を起用した撮影現場にはいつも独特のやわらいだ空気が生まれるのだ。
そうしたことが現場スタッフの緊張をとき、いい意味でモデルを調子づかせる。
女性スタッフが多い現場では、圭司の端正な面立ちがその傾向にさらなる拍車をかける。
何度か撮影現場に立ちあってみて、フレデリックの言っていたことが佐和にはよく理解できた。
モデルの表情に嘘があれば、圭司はそれを嘘として写し撮り、モデルや商材の見せたくない部分をも遠慮なく切り取ってしまうが、圭司が生みだす雰囲気のなかで、モデルはある瞬間、小ざかしい計算を忘れた表情やポーズを自然に見せ、身につけたアイテムまでいきいきと躍動させてくれる。
それが結果的に被写体を魅力的に見せるのだ。
同じカメラ、同じライティングで撮らせても、圭司の写真に一筆多めの情緒性がただよう不思議は、どうやらそのあたりに秘密があるようだと佐和は勘づいていた。
美しい外観を持った者であれ、そうでない者であれ、結局、人の美醜(びしゅう)というものは、その人のもつ内面の混沌のあらわれ具合いで大きく変わるのだなと、佐和は、圭司と仕事をするようになってグラビアに対する考えを新たにした。