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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
『なみいる大御所を差しおいて
読者アンケートでいちばん人気よ。
編集部でも白石君は一目おかれてる。
逸材ね。私、彼の写真にほれたわ』
そう圭司を評価して、佐和はいたずらな目線を早苗に送った。
『へぇ……』
早苗はアゴを引いて素っ気ない態度を見せたが、圭司のカットが一流出版社の眼鏡にかなったことが、心底、嬉しかった。
圭司は才能を認められ、あれほど欲しがっていたチャンスをものにした。
それが我がことのように嬉しくて、胸に歓喜が突き上げたが、そのうれしさとは別にやるせなさが煙のように拡がっていき、早苗はふぅと息を吐いた。
鼻梁の明晰なラインを形作る深いアイホールの奥で、早苗の眼が潤んだのに気づいた佐和は、少しペースを落とすよう店の主人へちらっと目線を飛ばして合図した。
主人はツメをつけた穴子を二人に出したあと、まな板をさっと拭いて厨房の奥に身をひいた。
何も見なかったわよ、とでもいうふうに、佐和は首をかしげて手にした切子細工のグラスに眼をあてている。
それが自分への気づかいであることを察して、早苗は、周囲の誰にもわからないくらいの目礼をした。
佐和の話しぶりや表情のこしらえ方には、相手を萎縮させない寛大さがあって、早苗は、賢くて頼れる姉(あね)さんを慕うような気持ちになった。
どこから見ても生(なま)の女であるのに、男性的な気っぷの良さを持つ安藤佐和という女性に、心に引っ掛かったままの圭司との事をうちあけてしまおうかと考えた。
出会ってほんの一時間ほどしかたっていないのに、佐和の貫禄のようなものが早苗を安心させていた。
カウンターの木目の一点を見つめ、早苗は、
『私、彼と一緒に暮らしてるんです』
と言い、
『彼が好きなんです』
と言った。
分別盛りの女にしてはいささかヤボったく耳に残ったが、そう口を切ったことで、胸につかえたものがおりたような気がして、早苗はホッとひとつ息をついた。
それからとつとつとした調子で、過去の不倫恋愛、圭司との出会いから今日にいたるまでを、むかし観た映画のあらすじを聴かせるように話した。