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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
『迷惑だなんて思ってません。
私も、前にここで遊んでから、
直樹クンのことがずっと気になってて。
母の墓苑でお会いしたときに
奥様を亡くされたと聞いて、
直樹クンもつらい思いをしてるだろうなって。
母は私が十一歳のときに他界したんです』
『十一歳ですか……。
それはお辛いことでしたでしょう』
『ええ。でも、
身の回りのことは自分でできる年齢でしたし、
家の用事が苦ではなかったですから、
父の足手まといにならないようにしなければ、
っていう気持ちが強かったです。
女の子の場合はそうかもしれないけど、
直樹クンには厳しいことでしょうね……』
まだこんなに小さいのに、と麻衣は直樹の髪を撫でた。
その仕草は、現実の世界に留美子が舞い戻ったような錯覚を滝沢にもたらした。
初めて会ったときから心の片すみにあった、もしかすると本来あるべき家族のかたちを、篠原麻衣によって取り戻せるのではないかという憧れが一気にふくらんだが、それは自分勝手な想望であり、篠原麻衣という人格に対して礼節を欠いた考え方であると、滝沢は、わがままにふくらんだ幻想を胸の底に沈めた。
『そうですね。
直樹にとって母親の存在は
とても大切だと思っています。
お父様は再婚なさらなかったんですか?』
『はい、まだ独り身です。
そんな機会があったのかどうか、
私は知らないんですけど、
私が微妙な年頃でしたから、
それでチャンスを逃したのかも。
そうだとしたら、
私は父に恨まれてるかもしれませんね』
そう言って麻衣は笑顔に崩した。
滝沢は真面目な顔つきで、うんうんとうなずいた。