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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
麻衣は水しぶきを避けながら、じゃぶじゃぶ池をまわって滝沢のところへいき、挨拶を交わした。
普段着の滝沢が墓苑での印象とはだいぶ違って見えた。
『先日は奇遇でした。
たまたま取引先が近かったもので、
ついでに墓参りしたんです』
休日の父親らしいくつろいだ笑顔で滝沢は言い、カップに注いだ麦茶を麻衣に差し向けた。
麻衣はカップを受け取って、
『奥様のこと存じあげなくて、
あのときは失礼しました』
と目礼した。
亡くなった滝沢の妻について特別な関心はあったが、ことさら自分からは訊かずにおこうと思った。
親しいからといって無分別に入りこんでいい話ではない。
『お話していなかった
私がいけないんです』
麻衣をベンチへうながして隣に座った滝沢が、携帯電話に表示した画像を麻衣に見せた。
赤ん坊の頃の直樹を抱いた、亡き妻の画像だった。
『妻は三年前、
交通事故で死んだんです。
私と直樹は助かりました。
それから二人で暮らしています』
麻衣は携帯画面に目をみはった。
そこに映る化粧っ気のない色白の女性が、驚くほど自分にそっくりだったのだ。
目鼻立ちと輪郭、髪型までもが瓜ふたつで、もし自分に姉妹があれば、こういう面立ちになるだろうと想像できた。
仔細に見ていけばそれなりに違いがあるのだが、外国人の顔が見分けにくいのと同じように、初見ではおそらくどちらか見分けがつかないだろう。それくらいよく似ていた。
『篠原さんを初めて見たときは
こんなによく似た人がいるんだって
ホントに驚きました』
『ほんと……。
私とよく似てる』
そうか、だから迷子になった直樹はあのとき私のところに来たのか、と麻衣は花見の日の出来事に納得した。
『篠原さんにはご迷惑かもしれませんが、
私はなんだか他人とは思えなくて。
たぶん直樹もそうなんだと思います』
滝沢は唇を引きしめて口元だけで微笑み、麻衣の胸に抱かれる直樹に視線を落とした。