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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
『私は直樹クンの
お眼鏡にかなったわけですね』
『人見知りのはげしい子、
のはずなんですが……』
そう答え、滝沢はぎこちなく麻衣から視線を外した。
あからさまに麻衣に見とれて、放心していた自分に慌てたのだった。
心臓が思いのほかたくさんの血を送り出しているのを感じ、麻衣に悟られないように鼻で深呼吸した。
好意を伝えるには、まだまだ時期尚早だとわかっている。
留美子というフィルターを透さずに篠原麻衣を見ることができるようになるまでは、断じて好意を伝えるべきではないのだ。
ただ、叶うものなら、この人を手元に置いてずっと見ていたい……。
滝沢は自分の心を焦がすものが、留美子を偲ぶものなのか、麻衣に対しての恋情なのか、どちらかわからなくなった。
水とたわむれる子供たちの鈴を振るような歓声が、雲ひとつない青空に間断なく舞い上がり続ける。
開放的な夏の風情は、穏やかな幸福感を麻衣に授けていた。
じゃぶじゃぶ池で はしゃぎまわる子供たちが気持ち良さそうで、麻衣は水に足をつけてみたくなった。
『気持ちよさそうね』
直樹をベンチに座らせてスニーカーを脱がせると、自分もサンダルを外して灼けつく地面をつま先立ちで歩き、じゃぶじゃぶ池に足を入れた。
足首までつつむ水の感触は予想外に冷たくて、すっと汗がひくように気持ちよかった。
ふと振り向くと、直樹が困り果てた表情で池のふちから弱々しい視線を麻衣に送っていた。
『どうしたの?
おいでよ。気持ちいいよ』
水深は五センチもないのだが、直樹は水に臆病なようで、抱いてくれるのならそっちに行きたいとでもいうように両手で手招きしている。
麻衣もその場で両手を広げて残念そうな素振りをみせ、直樹が水に入るのを待った。
臆した直樹のためらう表情がたまらなくかわいい。
入ろうか、入るのよそうか、と難しい顔をしている。
ためらいを見せるとき、直樹はいつも真剣なのだ。