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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
夕方、麻衣は、手料理とお供え物の紙袋をたずさえ、時間より少し早く待ち合わせた駅に着いた。
ホームは花火の見物客で混雑していた。
改札口には人だまりがいくつもできていて、そのなかに滝沢と直樹が手をつないで待っていた。
麻衣の姿を見つけるなり、躍りあがって喜ぶ直樹の様子が麻衣の頬をゆるませた。
改札を出てきた麻衣に、すぐさま直樹がまとわりつく。
麻衣がさげてきた荷物を滝沢がさりげなく麻衣の手から外し取った。
『わ、重い。
大変だったでしょう』
到着を喜ぶよりも、まず労をねぎらう滝沢の物堅い優しさと申し訳なさそうな笑顔が、麻衣の胸を締めつけた。
花火見物の人いきれから離れ、山手のマンションへ向かうゆるい坂を直樹の歩調にあわせてゆっくりあがる。
夕日を背に歩く駅からの坂道には、直樹を真ん中に手をつなぐ三人の長い影が伸びた。
湾を背景に西洋式の小じゃれた建物がならぶ港町らしい街並みは、同じ港町でも倉庫街とはだいぶ趣きが違う。
ガランとだだっ広い、どことなく無機質な感じのする港湾界隈も好きだが、銀行や郵便局や飲食店が身近にあって、生活に必要なものがひと通り揃った街も結構いいものだなと、麻衣は観光地に来たような心持ちで初めての街を歩いた。