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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
『虫が上がって来ないんで、
夏場は窓あけっ放しです。
網戸も要らないんですよ』
リビングの窓越しに滝沢が言い、麻衣に麦茶を手渡して、直樹の口に小さなチョコアイスを頬張らせた。
『ほんとにいい眺めですね。
ちょっと恐いですけど』
麦茶をひとくち飲んで麻衣が言うと、滝沢は、
『ここに住む値打ちの半分以上が、
眺望にあるようなもんですよ。
花火はあの辺りに
これぐらいの大きさで見えますよ』
と両手を広げ、頭の上に大きな輪を作ってみせた。
『へぇ! そんなに?』
大きく目を開く麻衣につられるように、滝沢も目を見開いて、『はい』とうなずいた。
『まだ時間があるので、
それまでゆっくりして下さい』
食事の準備ができたら声をかけますと言って、滝沢はキッチンに戻った。
見せたいものがあるという意味のことを直樹が言い、リビングに連なる洋室へ行こうと、麻衣の手を引っ張った。
家人とはいえ直樹はまだ子供である。
滝沢の了解なく勝手に家の中を見てまわるのはいけないと思い、麻衣は『いいんですか?』と滝沢に訊ねた。
『どうぞ、どうぞ。
好きに見てまわってください』
滝沢は気安く答え、湯が煮立つコンロの前で素麺の紙帯を切った。
洋室には直樹の学習机が置いてあり、玩具とぬいぐるみがいくつか転がっていた。
机の横に水槽型のケージがあってハムスターがいた。
直樹は裏返した整理用のコンテナケースの上に載り、上蓋をあけてケージに手を入れると、中のハムスターをそっとつかんでケージから出した。
手のひらに乗せたハムスターを大切そうに顔の前に寄せて、
『ともだち』
と麻衣に紹介した。
ハムスターは直樹によく馴れていて、手のひらの上でおとなしくしている。
『かわいいね、
お名前はなんていうの?』
『まかろに』
麻衣がふいた。
『そうなんだ。
かわいい名前ね。
まかろにちゃんは、
なんで¨まかろに¨になったの?』
『あのね、なおきの、すきの、
おなまえの……
あの……たべるの、すきから、ね。
パパもすき、から』
直樹は愛くるしい真顔で懸命に説明したが、直樹の言葉に要領をえず麻衣は困惑した。