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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
滝沢はかつてないほど緊張していた。
だが、口火を切ってしまった以上、正直に言うしかないのだと腹をくくった。
いい歳をして、じたばた繕ってもみすぼらしい。
篠原麻衣に告げた自分の想いに不実はない、と深くうなずいた。
『だって私は、わたしは……』
あとの言葉を失って、麻衣はうなだれた。
滝沢の求愛が嬉しかった。
自分が見つけねばならない幸福を、滝沢が差し出してくれているのだと思った。
自分を計算高い女だとも思った。
人を裏切る人間だとも思った。
そして、出逢いとはなんと残酷なのだろうと思った。
迷子に手を差し伸べたあのとき、自分に最もふさわしい幸福に出会っていた。
だがあの日、圭司から求婚されたのだ。
出逢わなければよかった――――
直樹にも、滝沢にも、圭司にも……。
不潔で醜悪なものが自分の中で毒々しく芽をふいたような気がして、麻衣は気持ちをふさごうとした。
そのときふいに、まるで記憶の破れ目からこぼれ落ちてきたように、子供の頃の出来事が想い出された。
友達と公園で遊ぶ約束をしていたのに、なんとなく行く気がなくなってすっぽかしてしまい、それからその子と疎遠になったこと。
お使いのお釣りをごまかして文具店でこっそり買った、いま思えば他愛もないキャラクターグッズの処分に困り、机の引き出しに隠し続けていたこと。
好きになった男子生徒を想い、自慰に身もだえたこと。
そのくせ、学校で顔をあわせても、つんと無視していたこと……。
心のひだに絡みついていた悪しき記憶は、誰かに覗かれるものではないとわかっているはずなのに、麻衣は、どうしようもない恥ずかしさと後悔にさいなまれ、胸に冷たいものを充(あ)てられたみたいに体を縮ませた。
なんでこんなこと思い出すのだろう。
心の中の記憶は、私とともに生き続けてる。
私の心はどこにあるのか。
心とは、私そのものなのだろうか……。