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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
滝沢自身、自分の言葉に驚いていた。
胸のうちでつぶやき続けた言葉が思わず声になってしまい、何を言っているのかと、吐いた言葉をかき集めて飲みこみたくなった。
だが言葉はよどみなく、滝沢の口をついて出てきた。
それは、滝沢の心情を正確に表したものだった。
『おつきあいなさってる方、
おられるんでしょうか。
もしそうだとしても、
私の気持ちが変わるわけじゃありません。
私に少しも望みがないのなら、
今、そう仰って下さい。
篠原さんにご迷惑をかけるようなことなら
潔く身をひきます』
そして咳払いしたあと、
『私は篠原さんが好きです』
と、滝沢ははっきり言った。
――――(あぁ、滝沢さん……)
くしゃっと胸の奥で音がして、麻衣は固く目をつむった。
脱獄の計画をたて、準備をすすめ、決行直前に捕らえられたような無念さがあった。
されども、自分には捕らえられることを期待しているふしがあった。
心のどこかで待ち望んでいた言葉ではなかったか、という気がした。
ようやく息を整えた麻衣は、なおも続く動揺を抑えながら、どうにか言葉を紡(つむ)いだ。
『滝沢さんは、
私のことを好きなんじゃありません。
直樹クンが懐(なつ)いてくれてるのは、
私がママに似てるからで、
滝沢さんがそう仰るのも、
奥様と私が似てるからです』
『それは、取っ掛かりです。
問題にはなりません』
『滝沢さんは、
私のことをご存知ないんです』
『はい。
だからもっと知りたいです。
でも篠原さんがどんな人であるか、
私にはだいたい解ります。
天稟(てんぴん)は偽れません。
他のことは私の思いに関係しません。
その上で私が篠原さんに感じるのは、
篠原さんを好きだということです』
思うままに答えた滝沢であったが、最後のひとことには思いのたけが込められていた。