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星と僕たちのあいだに
第3章 星のすぐそばに
とかく男はこういうもてなしに弱い。
いや、男でなくとも目覚めてすぐに温かいものを食む朝を迎えたならば、そこに幸福感以外の別の感情を探すことは難しいのではないか。
特にひとり者の圭司にとって、夜がまだ明けきらぬ朝方に、女のこしらえた汁物を差し向かいですするというのは、いかにも男の夢想を加勢する光景である。
『どうですか?
お味噌汁、からくないですか?』
恋愛的情調にひたっていた圭司はハッとした。
何か言わなければならなかった、おいしいよ、とか、丁度いいよ、とか……。
『からくない、ホント嬉しい』
麻衣は箸を持った手の甲をくちもとにそえて、クスッと笑った。
『あれ、なんかおかしかった?』
『だって、
からくないかって聞いたのに』
『へ、俺、なんて言った?』
まつ毛を伏せて微笑み、小さくかぶりを振ると、
『いいです、いいです』
と言って、麻衣はもう一度クスッと笑った。
圭司は麻衣の笑顔に安堵した。
ゆうべ、渡瀬と話したあとで感じた、麻衣に対する自分の責任について、それを笑顔の麻衣が少し軽くしてくれたように思えたのだった。
圭司の茶碗があくのを麻衣がチラチラと気にしている。
それに気づいた圭司は、足早にキッチンへ行くと土鍋をかかえて戻った。
『麻衣ちゃん、ほら
おかわり入れたげるよ』
と手を出した。
麻衣はいらないと手をふったが、圭司はもう少し食べようと言って麻衣の茶碗を奪い、しっかりと詰め込んだ。
圭司がよそった茶碗を見て麻衣は目を皿のようにしたが、両手で茶碗を受けとると、ありがたそうに小さく頭をさげた。
――――(神の使いかぁ……)
ゆうべの渡瀬の言葉が、圭司の心の中に咲いた。