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星と僕たちのあいだに
第3章 星のすぐそばに
先に食事を済ませた方がゆっくり湯につかれるだろうと、一階の食堂でさほどでもないバイキング形式の夕飯をとり、そのあと温泉で疲れた体をほぐした。
長湯を堪能した圭司が部屋に帰っても、麻衣はまだ浴場からもどっていなかった。
仲居が勘ちがいしたのか、シングルの蒲団を二組ならべて八畳間に敷いていたので、圭司はあわてて自分の蒲団をせまい四畳間に引きずって移動させた。
それから襖をさがしたが部屋のどこにも見あたらず、仲居を呼んで襖を入れてもらった。
『まぁこんなもんだろう』
そうつぶやいて、襖を開け閉めしながら、何がこんなもんだよと心中で自分を笑った。
機材の整備をすませてノートPCを開き、受注状況をチェックすると三千件近いオーダーが入っている。
『おお……』
圭司は思わず声をもらした。
ひさしぶりの大漁に嬉しくなって正座にすわりなおし、画面に向かって二度、柏手(かしわで)を打った。
地元サッカー協会への謝礼分を差しひいても、相当の利益が見こめた。
『ありがたや、ありがたや』
そう言ったものの喜びは長く続かず、こすり合わせた手をヒザに置いて長いため息をついた。
これではダメなのだ。
もし、きょうの大会で波乱がなければ、これだけのオーダーは無かっただろう。
これは環境がもたらした結果であって、つまるところ自分はその環境に左右され一喜一憂している。
目先の問題がひとつ解決したにすぎない。いずれまた同じ問題に直面する。
たとえ懐(ふところ)が温もるほどのギャラを得られたとしても、それはいっときのことで、安心というものからはほど遠い。
写真を撮ることは好きで才能の自覚もある。
だとしても、運がなければ、この才能をメシの種にして生きていくには限度があるのかもしれない。
金銭的な満足よりも、チャンスがほしい。
チャンスさえあれば……。