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星と僕たちのあいだに
第3章 星のすぐそばに
『役に立たない才能かぁ……』
そうひとりごちて伸びをした圭司は、そのまま仰向(あおむ)けに蒲団へたおれこんだ。
いつまでもこんな生活でいいのだろうかと、ぐれた少年のような思いがよぎる。
これまでの苦労を放擲(ほうてき)することができたとしても、もう二十八だ。
そろそろ気楽に職換えできない年齢にさしかかってくる。
すすけた天井にぶら下がる丸い蛍光灯をボーッと眺め、大きなあくびをひとつすると、早苗に想いをぶつける渡瀬の姿が浮かんだ。
――――(浩ちゃん、どうなんだろう)
もしかすると早苗と渡瀬のあいだには、すでに愛情の種のようなものがあるのかもしれない、と圭司は思った。
どちらかといえば引っ込み思案の渡瀬が、勝算のない恋愛感情にムチをいれるとは考えられなかったからだ。
『絵本作家の妻、ね』
カカァ天下となった渡瀬家で、早苗に尻を打たれる渡瀬が色鉛筆をにぎって涙目になっている場面が目に浮かび、頬がゆるんだ。
入り口の戸が開く音がして、圭司は体を起こした。
『遅くなりました』
浴衣に丹前(たんぜん)を羽織った麻衣が戻った。
長湯で上気した肌は、首元をうすい朱色に染めている。
『ゆっくりできた?』
『はい、もう贅沢すぎて』
『そりゃよかった』
麻衣は蒲団のへりにヒザをついて枕をとんと叩くと、自分が狭い部屋で寝ると言った。
『いや、俺はこっちでいいよ。
パソコンとか広げちゃったし、
狭いほうが落ちつくんだ』
とんでもない、というふうに麻衣は首を振る。
『私は荷物も何もないのに、
こんな広いお部屋で寝かせてもらうと
バチが当たります』
バチが当たるという古風な言い方が、圭司には可笑しかった。
『そんなことで
バチなんて当たらないよ。
とにかく俺はこっちでいいよ』
圭司は立ちあがると、備え付けの冷蔵庫からミネラルウオーターを出して麻衣に渡し、部屋を出てトイレへ向かった。