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星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
 
かつて、麻衣の性行為は妊娠を前提としたものだった。
不妊によって将来の展望を奪われたときから、セックスは麻衣にとって快楽を得る以外に結果をともなわない行為だったのだ。
不妊とセックスの快感は陰と日なたの関係にあり、行為のたびに、麻衣の心にはやるせないものが頭をもたげるのだろうと、圭司は推して考えた。

『そうだな。
 麻衣は妊娠できないんだった。
 それが、どうした?』

まばたきをした麻衣の眼から涙がこぼれた。
その涙を圭司が親指でぬぐった。

『大事なことだよなぁ。
 けど、俺は妊娠できるかどうかで
 好きになったり嫌いになったりできないよ。

 たった三日でなに言ってるって、
 そう思われても仕方ないけど、
 俺はホントに麻衣が好きだよ』

そこまで言うと、圭司はまた少し考えた。
男の要望と無関係に麻衣自身が子を欲しがっていたのなら、本人にとってこれほど辛いことはない。
なぐさめはかえって麻衣を傷つけはしないだろうか。

『麻衣は赤ちゃん欲しいんだ?』

麻衣は難しい表情で首をかたむけた。

『欲しい、です。
 できないってわかってから、
 それからいっそう欲しくなりました。

 産むのが普通だと思ってたから、
 自分が普通じゃないのが、
 それが嫌です』

『普通じゃない、か。
 そう思うんだなぁ』

『それでも
 私には毎月、生理があるんです。
 まるで嫌がらせみたいに、毎月。

 おなかに向かって言うんです。
 どうしてそんなにがんばるのって。
 期待させないでって』

麻衣は、圭司の手をつかんで自分の下腹にあてた。

『いつも思うんです。
 私のおなかは、何のためにあるの?
 私は何をしに生まれてきたの?
 お母さんは私を産んでくれたのに、
 周りの人はみんな産めるのに、
 神様は私に手抜きしたんだ、って』

話すにつれ麻衣の手に力がこもり、握りしめられた圭司のほそい指が、麻衣の手の中で束になった。
その痛みで圭司が目を閉じた。

『ごめんなさい』

ハッと気づいて麻衣がゆるめた手を、圭司はそっと握りかえした。

『ううん、大丈夫』


 
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