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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺

圭司はふいに、快感とは別の、ある陶然とした感情に包まれた。
それは、不安の殻を打ち破って突きだしてくる希望のように、男女の愛の本当の意味を圭司に確信させた。
古宿の夜から飽くことなく麻衣の肉体に耽溺(たんでき)してきた。
自分はこの先も、麻衣の体を欲し続けるだろう。
だが、どれほど体を求めても肉体は確実に老いてゆき、いずれはこの世界から消えてしまう。
それは、この世に生きる人間の宿命だといえる。
死という宿命を背負いながら、命は時間軸を未来へ進む。
生き物はすべて、肉体はおろか存在そのものをそのときそのとき失っていく。
一秒前の自分は、もうこの世に存在しない。
記憶の層へ過去を上書きしながら、ただ、今だけを生きている。
そう考えれば生き物は儚(はかな)い。
けれども、儚いからこそ人は愛という手段を選んだのだ。
肉体はいつか滅ぶが、愛には永遠の尺度をあてはめることもできるからだ。
永遠ではない肉体を持つからこそ、人は肉体以外の愛に永遠を誓い、今の幸福をよろこび、未来へつなぐ意欲を得るのだろう。
性の行為は、いずれ肉体を失う未来の自分たちへ愛の経験と記憶を受け渡す、いうならば、「今を綴る」行為なのかもしれない。
愛は人の意思そのもの。
だから麻衣をきちんと愛そうと思う。
愛されたのだと、いつか未来の麻衣が確かめられるように、
惜しみなく愛して、愛して、愛し抜こう――――。
圭司は、麻衣を抱きしめてマットレスに倒れこんだ。
あお向けにした麻衣の上におおいかぶさって、しっかりと頬をすりあわせた。
乳房や二の腕の柔らかみ。やさしい香り。
それらへの愛しさが言葉となって、圭司の口をついた。
『愛してる』
麻衣はぴくりと身ぶるいし、まばたきを忘れた。
耳元につむぎだされた圭司の言葉が、頭の奥でこだましていた。
いままで一度も求めたことのないその言葉を聞いた瞬間、麻衣は烈しく駆り立てられ、たまらず圭司の体に手足を巻きつかせた。
しがみついた圭司の肉体は、いつもより雄々しくたくましい。
弾かれそうな鋼の触感がことさら麻衣を興奮させた。
『して、して、もっと愛して!』
麻衣は最奥へとせがんだ。
ヒステリックな熱狂をおびて、大きな声が午前の陽がさす倉庫に響いた。

