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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第2章 カテリナ・ラ=フェール
「何かじゃないわよ! コイツ、あたいのお尻を触ったんだよ! 連れだってんなら、あんたに責任とってもらおうか?」

 静まり返った中で娘の啖呵だけが威勢よく響く。相手が誰だか気づいてないのか、よほど肝が据わっているのか。

「そいつは失礼」ピエルはすました笑顔で言った。
「不調法な連中でね、お詫びにお金で解決させてもらいたい」

 と、娘の屋台を顎でしゃくる。

「俺様が店の品物をすべて買い取らせてもらうってのはどうだ。それで勘弁してくれるかい?」

「えっ……い……いいけど……」

 浮世離れした申し出に虚を突かれながらも娘は承諾の言葉を口にした。

「そんじゃコレで」

 ピエルが無造作に放って寄越した物を受け止め、その手を開いた娘は目を丸くする。

「こっ……これって……?」

 それは一枚のピカピカの金貨だった。

「不足かい?」
「と、とんでもない……っていうか逆だよ! 金貨一枚あればこの路地の売り物全部だって買占めちまえるよ!」

「そうかい、そりゃ困ったな……」

 ピエルがわざとらしく渋面をつくる。

「今手持ちがそれしかなくてね。釣りが要るんだけどなあ」
「そ、そんなあ! そんな沢山のお釣りなんか払えないよ! わかったよ、もういいよ……お金は返すからさ、今度から気をつけな!」

 ピエルの常軌を逸した態度に毒気を抜かれたのか、娘はこれ以上騒ぐ気をなくしたようだった。しかしそれこそピエルの思う壺だった。

「返すだとぉ……オイッ! なめてんのかテメエッ! 俺様を誰だと思ってやがる!」
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