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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第8章 ノエル=シューヴルーズ
 銃士隊なんて危ない仕事なんかしなくても、という彼の口癖はノエルの父親も全く同じだった。貴族の娘なのだ、そんなことをしなくても生きていけるではないか。淑女には淑女のするべきことがある。

 そんな彼らの言い分をいつも天使のような笑顔でいなすノエルだった。

――ノエルにはノエルのやるべきことがあるのです。世の中の事を何も知らない女にはなりたくはないのです。

 貴族の義務を果たして戦場に若い命を散らせたお兄様の様に、自分もまた愛する美しい母国のために崇高な使命に身を捧げたい。それがノエルの願いだった。

 とはいえ、休暇が明け、彼らを故郷に残して王都に戻る日にはいつも、後ろ髪を引かれる思いで少し涙が出てしまうのだが。

 王都の城壁が見えてくる頃にはそんなノエルの涙も乾いている。気持ちを切り替えて銃士の顔つきとなる。

「今日は雰囲気がおかしいですわね……」

 妙な空気だった。道行く人々に落ち着きがない。

「……何事かあったのかしら」

 従者に指示して二、三の市民に尋ねさせてみる。そうやって情報を収集した所によれば、どうやら広場で騒動があったらしい。ピエル・ド=ダンバジャン邸を市民が取り囲んで悪事を追求したのだとか。

(ピエル・ド=ダンバジャン……)

 その名を耳にしてノエルは息を呑んだ。芳しからぬ噂はもちろんの事だが、なによりその父親がこの国の最高権力者であることがノエルを憂慮させた。
従者には先に荷物を運んでおくよう言いつけ、単身広場へと急いだ。
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