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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第8章 ノエル=シューヴルーズ
 広場には確かに多くの人々がピエル邸を遠巻きにしていたが、格別騒ぎとなっている風ではなかった。

「騒動があったと伺ったのですが、騒ぎは収まりまして?」

 馬を下りて周りの人々に尋ねる。

「昼頃まではそりゃあエライ騒ぎだったよ、石を投げる奴までいてね」

 しかしその後、邸に乗り込んだ銃士隊と隊長カテリナによる呼び掛けがあり、徐々に静まったのだと言う。今は皆、法院に出向くというピエルの動向を窺ってこのように遠巻きに邸を囲んでいるのだそうだ。

(あらまあ、到着早々に大変なお仕事が待ち構えていたこと……)

 ノエルはそのまま敷地に入ろうと鉄門を押してみた。錠は下ろされておらず、すんなりと中に入ることができたが、その中の光景にノエルは思わす息を呑んでしまった。

 庭では傷を負った銃士達が呻きをあげていた。あるものは折り重なるようにして倒れ、またあるものは負傷した仲間を助け起こそうとしている。

「どうなさったの……この有様は!」

 近くの銃士に駆け寄り尋ねる。

「あ……ノエル様……」

 ノエルは隊内で特に上の階級ではなかった。仲間達が敬称をつけて彼女を呼ぶのは彼女の地位を慮ってのことだ。おい、ノエル! などとぞんざいに呼ぶのはカーラぐらいのものである。

 特別扱いして欲しくはなかったので、カーラの無遠慮な呼びかけを好ましく思ってはいたが、周りの人々からの敬いを受け入れるのもまた貴族の務めと心得ていたため、ノエルは仲間の恭しい呼び掛けもまた、そのまま受容していた。
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