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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第11章 枢機卿の罠
 パレ・ド・カディナールの枢機卿執務室の前で、ノエルは先ほどから押し問答を繰り返していた。

「ですから猊下に至急のお伝えがあると……」
「ダメだダメだ! 約束もなしに、どこの誰とも知れぬ者に枢機卿様に会わせるわけにはいかん!」

「ですから銃士ノエル=シューヴルーズと名乗りましたでしょうに!」
「そういう意味じゃないというのに……」

 愛らしい唇を尖らせ、一歩も引かないノエルの態度に、立番が頭を抱える。

「それに緊急事態ですの! 約束などできるわけありませんわ!」
「そのように言われていちいち通していたら枢機卿様のお時間がたちどころになくなってしまうというのがわからんのか……まったく女という奴は自分の都合しか考えぬものよ!」

「あら、それは全ての女を馬鹿にされたご発言? 貴方がマッダム(奥様)のお尻に敷かれているからって、そういう仰り様はありませんことよ」

「なっ、なんだとっ!」

 もとより、ノエルは理を尽くして中に入れてもらおうなどとは考えていなかった。立番の男の言う通り、どんな理由であれ枢機卿の予定が狂わせられるようなことがあって良いはずがない。国家の宰相なのだ。ノエルもそれは理解していた。

 であれば採れる手段はひとつしかない。そのための敢えての大騒ぎである。

 彼女は知っていた。特に行事がない場合、枢機卿は会見などを午前中に済ませ、昼の休息から夕刻の会食までは一人で執務に当たることを。執務室の前で大声を上げていれば自ずと本人の耳に入るということを。

 そしてノエルの狙いは見事に図に当たった。

 執務室の中で、ちりんと音を立てて立番を呼ぶベルが鳴らされたのだ。
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