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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第11章 枢機卿の罠
「いや、すまぬ。つい話がそれてしまったようだな」
「いえ、為になるお話でした。それでは下がらせて頂きます……」
「待ちたまえ」
「はい?」
「君を入れたのは、先ほどの伝達を聞くためだけではないのだよ……マドモワーゼル・ノエル」

「と、仰いますと……」
「実は私も君を呼び出そうとしておったのだよ。ちょうど都合が良いと思ってね……」

 そう言って枢機卿は机の上から一枚の証文を取り出した。

「署名はレモンド・ド=ウナロール、確か君の婚約者だったと思ったが」
「レモンドとは確かに婚約しておりますが……」

 証文を見てノエルは息を呑んだ。それは借用書であった。そしてそこに書き込まれていた金額は五百万フラーナ!

「そ、そんな……」
「ご存じではなかったようだね? なかなか遊び癖が悪いようだが、遊ぶのはともかく筋の悪い金貸しには金を借りるものではないね。証文がこうやってどこの誰とも知らぬ者の手に渡ってしまう。いや、そういう者らの手の中で焦げつく前に私が押さえたわけだが」

「あ……ありがとうございます猊下」
「礼には及ばぬよ。……というわけでこれの債権者は今は私だ。君はどうしたいかね」

「はい。レモンドにはわたくしから厳しく……」
「ハッハッハ! それはそうだろうとも!」
「だがね、先ほど焦げつくと言ったが……よくご覧、期限はとうに過ぎておるのだよ」

 ノエルは再度証文を確かめた。その通りだった。これでは今すぐにでもレモンドの手に縄がかかることになる。

(ああ、レモンド……なんてことっ)

「つまり、君の婚約者の運命は今、私の心ひとつに懸かっておるわけだ」
「か、重ねてお礼を申し上げます……猊下」
「礼には及ばぬと申したであろう。私が聞きたいのは礼ではなく、君がどうしたいのかだ」

「……?」
「ことによるとレモンド君の裁判のほうが先になるかもしれぬなあ、私の愚息ピエルよりも」

 もちろん枢機卿にとって、法院の裁きの日程を動かすことなど造作もないことだ。

 いつの間にか老宰相の眼光は妖しいものとなっていた。ノエルの体を頭の天辺からつま先まで舐め下ろす。

 その豹変を見て、ノエルは背筋に冷たいものを感じた。

(ま……まさか!)

「答えていただこうか……マドモワーゼル・ノエル!」
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