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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第2章 カテリナ・ラ=フェール
 あちこちから過激な怒声が上がる。罵声が罵声を呼びその輪を広げ、あっと言う間に先ほど以上の怒気を孕んだ剣呑な騒乱となった。

「静まれ! 静まれッ!」

 カテリナがいくら叫んでも最早言う事を聞きそうにない。パニック寸前の危険な状況だ。

「くっ……」

 カテリナの顔が苦渋に歪む。やむを得なかった。

 タァーン!

 天に向かって威嚇発砲し、一瞬だけ人々の気を逸らせると、カテリナは馬から飛び降り鍵を拾って錠前に差し込んだ。

 隊長の意を察した銃士隊の隊士たちがすぐさま門を押し開く。

「敷地内に退避!」

 ピエル達共々、銃士隊を連れてカテリナは邸内へと避難した。

「殺せ!」
「なんで捕まえねーんだ!」
「殺せ! 殺せ! ブッ殺せーッ!」

 いきり立った群衆が雪崩れ込む寸前、その鼻先で鉄門が閉じられる。

 収まらぬ怒りを口々に叫びながら、集う人がどんどんと膨れ上がり、ピエル・ド=ダンバジャン邸をぐるりと取り囲むほどとなっていく。

「ブッ殺せ!」
「法院へ引きずり出せ!」
「出てこいロクデナシ野郎!」

 口々に喚く人々は怒りの矛先を向けることに夢中で、先ほど訴えをした女がいつしか人波に紛れて姿を消していることに気づかなかった。

 まして彼女が白く透き通るような肌の持ち主で、その顔にはそばかすひとつなかったこと、そしてその唇の赤いルージュの色など、興奮の渦に呑まれた市民達の記憶には残りはしなかった。
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