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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第2章 カテリナ・ラ=フェール
 ナルシャもカテリナもピエルという男の性格と行状をよく知っていた。

 法の尊重と秩序の維持を以て任とする銃士隊とは真逆の存在なのだ。これまで直接対立をしたことこそなく、不倶戴天の敵とまでは言えないものの、王都で起きる大なり小なりの事件の裏にはピエルの名が潜んでいることが多かった。

 親の力を巧みに利用する持ち前の狡猾さと、仲間を仲間と思わぬ薄情さのおかげで、これまでピエル本人が直に追求されるようなことはなかったが、どうやらこの悪党にもついに年貢の納め時がきたようだ。

「……従って頂くさ」

 カテリナの口調は散歩にでも出かけるかとでも言うような気負わぬものだった。

 ピエルが難物であることはわかっている。だが、正義を信じるカテリナに恐れるものはなかった。

「それよりも……」カテリナは門のほうを見やる。
「……気をつけねばならないのは市民の安全だろうな」

 屋敷の庭を囲む高い壁と鉄の門に遮られ、幾分遠くに聞こえるものの、外の怒声はまだ引く気配がない。

 とてもではないがピエルを連行できる状況ではなかった。今連れ出そうものなら、嬲り殺しの私刑が発生してしまうかもしれない。よしんばそれを防げたとしても、興奮した人々の間で事故が起きるであろうことは必定だ。

 邸内へと退避したのはそれを避けることが目的だった。カテリナが真に恐れるのはパニックによって引き起こされる無用な流血の事態だった。

 それに比べればピエルを従わせ、連行することなど些事に過ぎない。

 と、そのとき――
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