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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第2章 カテリナ・ラ=フェール
 ドカッ!

 何かが壁の外側にぶつかる音がした。カテリナの指示を仰ぐまでもなく、ナルシャが傍らの樹上に軽やか身を運び、壁の外を窺う。

「投石です。皆が石を持って投げ始めています」

 バガン!
 ドガッ!

 次々とレンガや石が投げつけられる。

「それにカテリナ様、まずいです……」
「どうした?」
「まだ遠くですが、後方から投石機が」
「投石機だと……」
「はい。カタパルト式が一台」

 投石機であれば広場の手前あたりの位置からでも礫弾で屋敷の門を狙える。

 だが、カテリナにはわかっていた。ナルシャがまずいと言ったのは、その威力や射程距離のことではない。

 兵器である投石機などを一般市民が気安く持ちだして来られるはずなどない。その意味するところがまずいのだ。

(……裏で何者かが介入を始めたな)

 おそらく私兵を持ついずれかの貴族が手を回して供与したのであろう。或いは国軍に影響力を持つ誰かが便宜を図ったか。

 いずれにしてもそれは事態の深刻化、陰謀化を意味する。

 ピエルの父である王国フランツィエ一の権力者、ダンバジャン枢機卿には当然ながらその足を引っ張ろうと画策する政敵も多い。

 この件を枢機卿の失点とするのがその目的であるとするなら、もうこの騒ぎが時間によって解決するという望みは絶たれも同然だ。裏で介入を始めた一派によって民衆は無自覚のうちに唆され、巧みに煽られる。騒ぎは助長され続けるだろう。

 そして何かの間違いが起きれば騒ぎは暴動に変わり、そうなれば乗じて諸外国がどんな行動を起こすか知れたものではない。

 そうでなくとも有力者たちが権謀術数を巡らすうち、気づけば内乱ということにもなりかねない。

(父上……)

 カテリナは目を閉じ、亡き父の姿を思い描いた。
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