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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第2章 カテリナ・ラ=フェール
「私は飼い犬ではありません。王都守護銃士隊隊長、カテリナ・ラ=フェールです」

 侮辱に対して眉ひとつ動かさずピシャリと言い返す。これにはピエルも黙るしかなかった。やり場のない憤りをもてあまし、荒い息をつく他なくなる。

「一人は皆のために、皆は一人のために……」

 カテリナは説得の最後の一押しをするべく再び口を開いた。

「この言葉は我が銃士隊の信条です。貴方は特別な誰かではない。市民達と共にこの王都に暮らす、またひとりの市民なのです」

 マスケッティア・オブリージュ(銃士隊の義務)と呼ばれるその訓辞をカテリナは心の底から信奉していた。

 全ての人々が誰かのために、そして一人一人の人々が全ての人々の幸せを想って日々を行う。そんな世の中がいつか来る。……いや、来させてみせる。

 マスケッティア・オブリージュを口にする度、心に想う度、カテリナは己の宿命を告げる高貴な感覚がその身を震わせるのを感じることができた。

 カテリナの言葉が耳に入っているのかいないのか、ピエルはただ血走った目で床を見つめてブツブツと悪態をつぶやくのみだ。

「ゴミが……クソカスが……」

 それは表に集う市民たちのことなのか、それとも意に沿わぬ銃士隊やカテリナを指すものなのか……判じかねたがどうでも良いこと。カテリナはピエルの気が静まるのを待った。

 しばらくすると、放蕩息子は小さな声で笑い始めた。

「フフッ……。フハハッ……」

 笑いながら空になっていた自分のグラスに再び酒を注ぎ、喉を湿らせるために口元へと運ぶ。

「それがお前の話ってことだな……?それで終わりか?」
「……ええ」

 カテリナは暗澹たる思いだった。もとより大して期待はしていなかったが、案の定の反応だ。いったいこの男をどうやって説得すれば良いのか。

(力づくで連行する他ないのか……)
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