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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第4章 カーラ=ボニファス
「マスケット交換!」

 樹上の銃士達が発砲した銃を地上に待機する相方に渡す。相方がすでに弾を込めてある新しい銃と交換する。

(しかし、そう簡単にピエルが説得に応じるとも思えない)

 おそらくは、ピエルをただ連行するのではなく、パニックを収めるために本人による何らかの呼び掛けをさせるつもりだろう。だが、あのピエルを協力させるのは恐ろしく困難なことに思えた。

(それでも……カテリナ隊長であればやり遂げるはず)

 カテリナがナルシャを信頼する以上にナルシャは己が隊長を信じていた。それはもはや信仰にも似た強固なものだった。二人の間には強い絆があった。そして、その想いがこの誰一人も傷つけることが許されぬ、厳しい防衛戦をナルシャに耐え抜かせているのだ。

 また、ナルシャにはもう一つの見込みがあった。

(あるいは、救援が来るのが先かもしれない)

 銃士隊はここにいる者達だけではない。もうしばらくかかるかもしれないが、早朝の警らに当たっていなかった者達がこの騒ぎと、帰還せぬ自分達に気づくはずだ。

 特にこんな騒ぎにはうってつけの頼れる者が銃士隊には一人いる。

(彼女なら大喜びしそうだが……)

 その者がこの騒動に気づいた時の喜びようをふと思い浮かべ、過酷な状況も忘れてナルシャはついクスリと笑みを漏らしてしまった。

「……ナルシャ様?」
「待って、まだ撃たないで」

 ナルシャは慌てて笑みを消し、群衆の背後に見えるカタパルト式投石機の様子を窺う。

 広場から押し戻された群衆のせいで前進に手間取っている。しかしいずれは人混みをかき分け屋敷を射程内に収めるだろう。

(少なくともあれを操作しているのは扇動者に繋がる者のはず……)

 貴族の中の不穏分子か外国の手先か。彼らの目的はピエルなどではない、この事態の拡大、暴動化だ。

 投石機を前進させるため、周りから群衆をどかそうとしている男達の姿が見える。飛んで行って叩き切ってやれないのが恨めしい。

 と、ナルシャはカタパルト式投石機に近寄る一人の見慣れた人物の姿を認めた。

(来たか……!)

 先ほど思い浮かべた頼れる援軍。こういう騒ぎが大好物の女銃士。

「ナルシャ様……威嚇射撃は?」
「いえ、待って。少し様子を見ましょう」

 希望が見えてきた。

 ナルシャはニコリと笑った。
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