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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第6章 ニンナーナ
王都ファリスの地下には、カタコンブと呼ばれる地下道で繋がった無数の納骨堂が広がっている。
葬儀と遺体の埋葬は教会にとって大きな収入源であり、手放すことのできない利権であった。
昔はごく小規模だった地下納骨堂はやがてその限界を超えて土中に遺体を孕むようになり、場所が足りなくなれば壁中に、それでもまだ足りなければ通路を掘って拡張し、新しい壁の中へ。溢れる遺体に追われるようにして、いつしか猥雑に絡み合った全長数キロメートルを超える巨大な網の目の如きものとなっていったのである。
その際限を知らぬ様は、僧侶たちの飽くなき金と権力への欲望を体現するかのようであった。
その地下道を黒装束の女が荒い息でよろよろと歩いていた。所々に掲げられた松明の炎が、黒いフードの下の彼女の透き通るような白い肌と、性感たっぷりの唇に引かれた赤いルージュを照らし出す。
ニンナーナだった。
ナルシャに砕かれた肩を押さえ歩を進めながらも彼女はしきりと背後を気にしていた。
追跡者の足音が聞こえる。
物音を隠そうともしないで真っ直ぐ追ってきている。
(この状態で逃げ切るのは無理ね……しかたない)
覚悟を決めるとニンナーナは歩みを止め、その両手に愛用の毒鞭スコルピオンを握りしめた。〝蠍″の異名の通り先端部の針から滴る分泌液は、傷つけた相手を毒に犯す。
(……あの女ではないはずだ)
ピエル・ド=ダンバジャン邸で戦った恐るべき二刀サーベルの使い手ナルシャ=ブランシェ。あれほどの凄腕には初めてお目にかかった。いつか決着はつけるつもりだが、それは今ではない。
スコルピオンの毒はエーテルと阿片を特殊配合した強力な催眠効果を持つ。あの戦いでは敵わぬまでも、かすり傷を数カ所に負わせていた。ナルシャ=ブランシェは今頃意識を失っているはずだ。ニンナーナを追跡できるはずがない。
では何者が。
葬儀と遺体の埋葬は教会にとって大きな収入源であり、手放すことのできない利権であった。
昔はごく小規模だった地下納骨堂はやがてその限界を超えて土中に遺体を孕むようになり、場所が足りなくなれば壁中に、それでもまだ足りなければ通路を掘って拡張し、新しい壁の中へ。溢れる遺体に追われるようにして、いつしか猥雑に絡み合った全長数キロメートルを超える巨大な網の目の如きものとなっていったのである。
その際限を知らぬ様は、僧侶たちの飽くなき金と権力への欲望を体現するかのようであった。
その地下道を黒装束の女が荒い息でよろよろと歩いていた。所々に掲げられた松明の炎が、黒いフードの下の彼女の透き通るような白い肌と、性感たっぷりの唇に引かれた赤いルージュを照らし出す。
ニンナーナだった。
ナルシャに砕かれた肩を押さえ歩を進めながらも彼女はしきりと背後を気にしていた。
追跡者の足音が聞こえる。
物音を隠そうともしないで真っ直ぐ追ってきている。
(この状態で逃げ切るのは無理ね……しかたない)
覚悟を決めるとニンナーナは歩みを止め、その両手に愛用の毒鞭スコルピオンを握りしめた。〝蠍″の異名の通り先端部の針から滴る分泌液は、傷つけた相手を毒に犯す。
(……あの女ではないはずだ)
ピエル・ド=ダンバジャン邸で戦った恐るべき二刀サーベルの使い手ナルシャ=ブランシェ。あれほどの凄腕には初めてお目にかかった。いつか決着はつけるつもりだが、それは今ではない。
スコルピオンの毒はエーテルと阿片を特殊配合した強力な催眠効果を持つ。あの戦いでは敵わぬまでも、かすり傷を数カ所に負わせていた。ナルシャ=ブランシェは今頃意識を失っているはずだ。ニンナーナを追跡できるはずがない。
では何者が。