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退魔風紀 ヨミ ~恥獄の学園~
第3章 「許さない!」
「わかるか? 絶世の美女、美男子となれるからといって、人間が愛するのはその姿だけであって、俺自身ではないのだ。虚しいものだ。疲れたよ……」

 最後は呟くようにしてインキュバスは寂しげな笑顔を浮かべてみせる。
 少なからず心を動かされる言葉ではあった。

(駄目よ、詠! これが奴の手なんだわ……)

 そうは思えど、幾ばくかの同情心がすでに湧いてしまっていた。契印を結んで攻撃するのが躊躇われる。かつてこんなしおらしい態度の魔と対峙したことはなかった。

「どうだろうか? 退魔師の娘よ、私を少しでも憐れと思うなら、倒した骸にその指で触れてはくれないか? 誓って言うが、これまで無理強いて人と姦淫したことはない。流儀に生きた私だ。最後はその流儀を解する者の真心で送られたい」

「そ、それは……」
「さあ、倒すなら倒してくれ!」

 インキュバスは、目を閉じると両腕を大きく広げて、胸を突き出した。覚悟を決めたその表情、悲壮感の漂うポーズは、そのまま石化すれば偉大な彫像として後世に残るのではないか。

 詠とて人の情けはある。淫魔の言葉と態度はそれに訴えかけるだけのものがあった。そして同時に、詠も一人の女性であったということだろうか。

 次に起きた出来事は詠自身、信じられなかったが、しかし無理からぬことだったのかもしれない。
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