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BLACK WOLF~crime~
第4章 海ノ魚
桜木さんの車を降りて小走りになり、着いたのはアパート近くの小さな煙草屋さん。
ここなら桜木さんの車も見えない距離だしバレることはない。
その陰から自分のアパートの様子を伺ってみる。
ここはアパートの裏手に位置してるし部屋の窓ぐらいしか見えないけど。
煙草の自販機の陰に身を潜めて、自分のアパートの部屋を見上げてみると
…見る限りでは部屋の灯りは消えている。
電気は消えてるみたいだが、カーテンのせいで中の様子までは見れない。
黒埼さん、帰ったのかな?
さすがにあれだけ多忙な人が帰るかどうかもわからない別れを告げた恋人をあんなアパートで待ってるなんて考えられない。
いつまでもここでコソコソしてるのは怪しまれるし、ここは思い切って部屋に帰った方がいいかも知れない。
会社帰りの男性やOLさん、学校帰りの学生が怪しげに私をチラチラと見ている。
「あ…」
有らぬ誤解をされる前にアパートに戻ろう。
と、その時に…
カサッ…、ポケットに忍ばせていた桜木さんから受け取ったメモの事を思い出した。
"桜木 弘志お兄ちゃんより(^_^)v"
……ドキッ
これって、桜木さんの連絡先だよね。
よく考えたらお兄ちゃんよりって。
車の中で慌てて書いたのか、若干文字がぶれている。
くすくすと、くすぐったい笑いが込み上げた。
そっか、頼っておいでって言ってくれたんだ。
桜木さん、ありがとう。
仕事を辞めた私の事まで気にかけてくれて。
本当にこんな人がお兄ちゃんだったらな…。
さっきまでの迷いや恐怖がなくなっていく。
桜木さんから勇気を貰った気がした。
ハルちゃんによく似た陽だまりのような人。
私は━━━━━━。
桜木さんからもらったメモ用紙をクシャッとポケットに戻し、アパートの階段をゆっくり登り始めた。
ゆっくり、と思っても老朽化した鉄の階段は足を進ませる度にキィキィ鳴いてうるさい。