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BLACK WOLF~crime~
第4章 海ノ魚
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ…
もし黒埼さんがいたら、きっとまた口論になる。
黒埼さんは、どんな人混みの中でも私の足音だけは聞き分ける人だ。
まるで、狼並みの嗅覚や聴覚で私を見分ける。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ…
体中の脈がドクドクと脈打つ。
心臓の鼓動が針に刺されてみたいに痛い。
辺りは薄暗くなり始めてる。
早くアパートに戻って、誰もいなかったのだと安心したい。
ドクンッ、ドクンッ…
ドクッ━━━━━
廊下を渡り自室のドアの前にまで来た時に、心臓の鼓動は今までにないほど脈打っていた。
自分の部屋に帰るだけなのにどうしてこんなに…。
勝手に別れを告げた事、黒埼さんが許すはずがない。
ドキドキしながらドアノブに手を伸ばして…
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ…
カチャッ、キィー…ッ
「━━━━━━━━━━っ!」
ドアノブを回し、ゆっくりとドアを開ける。
心臓の鼓動を抑えながら。
どうか、黒埼さんがいませんように。
アパートを勝手に解約して荷物を運び出してる、何てことがありませんように。
キィー…
開け放たれたドア。
その中に広がっていたものは…
「あ…」
…いつもと変わらない部屋。
昨日と何1つ変わってない部屋だ。
黒埼さんの姿は見えない。
……黒埼さんはいない。
よかった、帰ったんだ。
部屋の荷物は運び出されてないし、何も変化はない。
さっきまでの緊張が解けていく。
「はぁ~…」
よかった…、よかった…。