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シミュレーション仮説 (旧作)
第9章 ある日、信二に映画の仕事が入ってきた。
 一人過ごす夜。
 
 信二は突然、思いつく。まるであの日、この世界がシミュレーター世界だ、と気が付いた時のように。

 あの女達も、オレの為に作られた存在のはずだ。
 オレに犯されるために、作られた。

 では、その後は?

 犯された後、あの女達はどうなる?

 女達以外もだ。
 
 駅ですれ違うために作られた、あいつらは?
 すれ違ったあと、どうなる?

 もしも、本当に、この世界がオレのために作られたのだとして、周りの人間はそのために作られたのだとして。

 オレと一瞬関わりを持った後、駅ですれ違った後。
 あいつらは消えたのか?

 もし、消えていなかったら?

 行くべき所に行き、会うべき人に会い、帰るべき所に帰ったはずだ。

 それを不自然にさせないため、行くべき所が作られ、会うべき人が作られ、帰るべき所が作られる。

 オレに、この世界を不自然に思わせないようにするのと同様に、そいつらの生活が生まれていく。
 そこから、また世界が広がり人が増え、さらにまた世界が広がっていく。

 そうやって、どんどん広がる世界において、自分はもう中心足りえないのではないだろうか?
 
 本当にオレが世界の中心だったとして、オレのためにこの世界が作られたのだとしても、そこまで広がってしまった世界では、もう自分の存在など、ちっぽけなものでしかないのではないのだろうか?

 オレが世界の主役だと思い込んでいたように、オレのために作られたそいつらにも、自分の人生があり、その人生を自分を主役に生きていく。

 つまり、オレは他人からみれば脇役であり、それではオレはやはり、世界の中心ではない、ということになる。

 ということは、他人は他人でしかない。
 オレが好きなようにしていい、道具では、ない。

 歪んだ思考ではあるものの、信二はようやく、他人と世界の重みを取り戻していた。
 
 しかし、もう遅かった。

 窓にはまった鉄格子。
 信二は服を脱ぐと、細く絞り上げ、それを鉄格子に結んで輪を作り、そこに自分の首を差し出した。

 オレハ、カミニ、マモラレテイル。
 コレカラ、カミノ、セカイニ、イク。
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