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シミュレーション仮説 (旧作)
第9章 ある日、信二に映画の仕事が入ってきた。
 警察の取調べにより、余罪が明らかになった。
 
 信二にレイプされた被害者が、被害届けを出しており、それを元に調査がされ、さらにまだ眠っている事件もあると考え、警察は調べを重ねている。

 信二に付けられた弁護人は、精神的な問題を訴え、責任能力の有無を取り上げたが、精神鑑定の結果は芳しくなかった。
 
 つまり信二は正気だった。
 本気で『神』に選ばれた、と信じていた。

 そのきっかけは、もう思い出せない。
 思い出せないが、信二は確かに信じていた。

 正気の中で、狂気を育み、『神』に選ばれた、この世界は自分のためにある、と主張する信二は、世間にも弁護士にも理解されなかった。

 弁護士は信二に言った。

 被害者達は、君に何の関わりも持っていなかった、普通の人達だ。
 君はそれを、まるでゲームのキャラクターのように思っているのかもしれないね。

 でもね、彼女達は一人何点と決められているキャラクターでもないし、この世界もゲームの世界ではないんだよ。
 
 弁護士は最後に、疲れきった声で付け加える。

 全力を尽くすが、あまり期待はしないでくれよ、と。
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