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快楽の奴隷
第9章 約束
それは花純の言葉を信じた眼差しではなかった。
ただ花純のことを信じている優しい眼差しだった。

「…………うん」

そんな母の優しさが心に染みた。
目に熱いものが込み上げる前に足早に自室に戻る。

『お母さん、ごめんなさいっ……』

部屋のドアを閉めるなり、涙が溢れた。
未来が見えない恋に身を焦がすことが愚かだと思ったわけではない。
約束された将来が欲しいわけでもない。
けれど母は、安心させてやりたかった。
普通に結婚して、孫を抱かせてやりたい。
花純のことを心配し、自分のことより娘の幸せばかりを願ってきた母を裏切るような恋は、身を切られるほどの苦しみがあった。

きっと夢を見てたんだ……

花純は自分に言い聞かせる。
憧れの作家が目の前に現れ、作中のヒロインなような目眩く快楽を与えてくれる。
そんなお伽噺のような世界に酔いしれてしまっていた。
憧れの作家の芸術を創りあげることに役立ててるということに、舞い上がってしまっていたんだ。

冷静に今の自分を見つめ直す。

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