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快楽の奴隷
第13章 ミューズ
高梨との休日は花純にも、心の安らぎと身体の充足をもたらしてくれた。
雨だから遠出せず、近くのレンタルショップで洋画を二本借りて二人で観る。
様々な人間模様が入り乱れるイギリスが舞台のラブコメディは花純のセレクト、太平洋戦争中の中国が舞台の過激なシーンが多い女スパイものは高梨のセレクトだった。
何をするわけでもなく、ゆっくりと流れる時間が心地よかった。
こんな幸せに包まれていると、花純は『嗤う人形』に嫉妬していた自分が馬鹿らしくなる。
しかし夕方になり、高梨が執筆の為に帰っていくと、途端に一人では広すぎる家が彼女を不安にさせた。
この家が大きな鳥籠で、自分は愛玩に過ぎないという惨めな錯覚が襲いかかる。
『違う……高梨さんは私をミューズと言ってくれた。今も私の身体にインスピレーションが沸いたから執筆に戻ったんだ』
花純の心は彼から貰ったその言葉にしがみついていた。