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快楽の奴隷
第13章 ミューズ
『妾』という言葉を振り払い、『ミューズ』と呪文のように唱える。
そもそも未婚の高梨に妾という言葉は相応しくない。
それでも不安で支配される彼女の脳内には何かすがるものが欲しかった。
自分の立場を美しく飾ってくれる言葉を求めていた。

愛されてるという実感だけあればいい。
そう思っていたのに、それを手に入れると次のものが欲しくなる。
欲深い自分に嫌気が刺す。

海藻のように心がゆらゆらと頼りなく揺れる花純は、再び『嗤う人形』を手にしてしまう。
それを読めば更に苦しむだけなのは分かっているのに、栞を挟んだページを広げていた。
嫉妬を孕んだ目をして、恋の物語の文字を追う。
窓の外ではやむ気配のない静かな雨が降り続いていた。
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