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快楽の奴隷
第14章 下卑た文学
帰りの電車は浮かれた気分が収まらなかった。
憧れの人が自分に情熱を傾けてくれ、書き上げた作品を書店で買う。
これ以上の幸せを花純は知らなかった。
もし自分に子供が出来たとしても、今以上に幸せと思えるか不安なほどだった。

大抵の官能小説がそうであるように、この『湖畔を抜けて森の中へ』にも作者あとがきはない。
幻野イルマは年齢も性別も非公開のため、作者紹介もない。

殺風景だが、これは高梨が望んでいることであった。
作者が変に顔を出してしまうと興醒めする。
それが彼のポリシーだ。

だが、なんの言葉もなくても花純には自分への愛が詰まった作品だということが分かる。
花純はじっとしていられず、高梨の家へと向かっていた。
どうしても会いたかった。
作品の話をされるのを嫌う彼だが、今夜だけは作品の話をしたかった。
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