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快楽の奴隷
第14章 下卑た文学
インターフォンを鳴らすと、しばらくしてドアが開く。
ドアの向こうには憔悴したように目が窪んだ高梨の顔があった。

「急にお邪魔してすいません」

駆け寄って声をかけると高梨は力なく笑っていた。

「またロマンスとかいう名前にかこつけた一時の衝動か?」

皮肉の言葉にもいつものキレがない。不安になりながら家の中へと入った。

「今日が発売日だったんですよ」

花純は本屋で購入したばかりの『湖畔を抜けて森の中へ』を彼の前に置く。

「湖畔を抜けて森の中へ、か……」

高梨は自嘲めいた笑みを浮かべた。

「今日は売れ行きのチェックをしに行かなかったんですね?」

沈む高梨に気付かない振りをし、敢えて明るい声で訊ねる。

「ああ……まぁな……」

高梨は胸ポケットから煙草を取り出すと、ローマ市のシンボルが描かれた愛用のジッポライターで火を着け、まずそうに煙を吐いた。

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