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第14章 下卑た文学

気恥ずかしくなった花純は慌てて書店から飛び出し、駅に向かう。

『やっぱり高梨さんは凄いなぁ……』

花純は自分のことのように高梨を誇らしく感じていた。
他人の成功の背に乗り、いい気になるつもりはないが、愛する男が大きな仕事を成したということは、やはり嬉しいものだった。

夢見心地で電車に乗った花純は思わず悲鳴を上げかけた。

電車の中刷りは『湖畔を抜けて森の中へ』のポスターで埋め尽くされてしまっていたからだ。
キャンペーンをやってる間の悪い車両に乗り込んだ花純は怯えながらドアの前に立ち、車窓を見る振りをして座席に背を向けた。
しかしポスターは背中姿だったと思い出し、慌ててドアに背を向けて車内に顔を向け直す。

慌てながら動く花純に不思議な視線を向けた人間はいたが、もちろん誰一人としてそのポスターの人物が花純だと気付くものはいなかった。