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快楽の奴隷
第15章 求めすぎる心
宏世の顔からは青ざめが消えていき、笑顔だけが残っていた。
まるで先ほど見た表情が幻だったかと思うほどに、他意のない笑顔に変わっていた。

「それに従兄妹同士の子供とか絶対ひかれるし!!」

わざと無理して明るく振る舞っている。
それは高梨にも分かっていた。

「それで、いいのか?」

心にもない気遣う振りをした言葉を吐き、自らに嫌悪感すら覚えた。
堕胎を自分から提案する宏世に対し、安堵してしまっている自分を殴り倒したかった。

「当たり前でしょ。でもお金は」
「お金は全部俺が出す。そんなことは心配するな」

そんなことだけ即答する自分自身が気持ち悪かった。
自らの過ちをお金で拭い去ろうとしているみたいに感じ、吐き気がする。

「……うん。ありがと」

覇気のない様子で頷く。
芽生えた命を消し去ろうとする罪悪感が、宏世の気持ちを落ち込ませている。
けれど彼女も子供じゃない。
どうした方がいいのか、ちゃんと考えられる年齢になったんだ。
高梨は無理矢理にでもそう思い込んで納得した。


その宏世が死んだのは、その日の夜だった。

自転車で夜道を全力で走り、交差点に飛び出したところをトラックに跳ねられた。
ほぼ即死だった。

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