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快楽の奴隷
第16章 応えすぎる心
ラブロマンスが悪いとは思わない。
むしろ高梨の世界観が広がることは喜ばしいことに感じる。
しかし高梨は口に出して言うことはなかったが、官能小説に誇りを持っていることを花純は知っていた。
高梨が官能小説をもう書きたくないと思っているならば、少し寂しいが支持する覚悟はある。
けれど彼はそうは思っていないはずだ。
むしろ下卑た文学と見下される官能小説を文学として高めることを望んでいるように思えた。
その高梨が官能小説から離れたものを書こうとしている原因は自分にあるのだろう。
そう考えると花純は胸が痛かった。
批判に晒された『湖畔を抜けて森の中へ』を上回るロマンスを書こうと躍起になっている。
その為に官能を棄て、新たなる境地を目指しているのは間違いなかった。

「高梨さん……」

その行為は高梨さんにとって、私への愛の証なのかもしれない……
けれど私は高梨さんには好きなように書いてもらいたい。
私に発情して、狂おしいほどの愛を文章で炙り出して欲しい。

窓から高梨の家の方を見下ろし、見えるわけない高梨の背中を見詰めるように目を凝らしていた。
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