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快楽の奴隷
第18章 なくして、得るもの
「馬鹿だよね……好きなのに……小説のために身を引くなんて……」

自嘲気味に笑う親友がどんな言葉をかけてもらいたがっているのか、鈴子には分かっていた。
「そんなことないよ」と、そう言ってやるのが花純の心に安らぎを与える。
しかしその安らぎが彼女を幸せに導くものかは分からない。
虫歯を鎮痛剤で散らすような、根本を無視した逃げ道に思えてしまう。
自分の行為に酔い、自分を責めることで落ち着き、残りの人生を犠牲の恍惚で無駄に過ごす。
そんな脆さを今の花純は漂わせていた。
かといってここで「自分の気持ちに素直になれ」と諭したところで心の扉を頑なに閉ざしてしまうのも目に見えていた。

「そう……それも一つの選択だろうね」

鈴子は笑いながら花純の肩を撫でる。

「わたし……これでよかったんだよね?」

期待していた言葉が貰えず、花純は尚も念を押す。
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