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快楽の奴隷
第19章 快楽の奴隷
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幾度となく通った道を頼りなげな足取りで、花純は歩いていた。
一歩づつゆっくりと踏み出す歩みは、まるで素足で画鋲の撒かれた道を歩くように痛々しげに見えた。
一歩進むごとに高梨の死が近付く。
そんな想いが足許に絡み付き、歩みを妨げた。

冬風が花純を責め立てるように煽り、トレンチコートが風を孕んで膨らんで襟元が乱れても直しもしなかった。
高梨の家の前に立ち、改めてその豪奢な洋館を見据えた。
冬空の下、赤い屋根のその館は物寂しく見える。
高梨のシニカルな笑みが脳裏に浮かぶと、泣くまいと誓った決意が早くも揺らいでしまう。
インターホンに伸ばした指は震えていた。
どうしても力が入らず、呼び鈴が押せない。
それを押してしまったら、いよいよ彼の死を受け入れなくてはいけない。
心臓が二倍に膨らんでいるかのように、激しく鼓動していた。

『今日じゃなくても、いい……』

揺らいだ心はすぐに彼女の決意を湿らせ、雨に晒されてぶよぶよに膨れた段ボールのように見苦しくかたちをなくしていく。
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