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快楽の奴隷
第19章 快楽の奴隷
逃げたことを認めることで胸のつかえが取れる。
罪の意識は消えないが、ほんの少しだけ心が楽になった。

「逃げてなんてないですよ、沼田さんは」

曽根は静かに呟いた。

「いえ……逃げたんです」
「逃げるというのは辛いことを放棄することでしょう? 貴女は違うはずです。ご主人様の前から身を隠して楽になりましたか?」
「それはっ……」

高梨のことを思わない日はなかった。
愛しくて、苦しくて、逢いたくて、心が安らぐ日など一日もなかった。

「貴女は逃げたのではない。ご主人様の為に苦難の道を選ばれたんです」
「でもっ……」
「そしてその貴女の自己犠牲のお陰で、ご主人様は最高の作品を書き上げることが出来た」

執事はじっと花純を見詰める。

「それに貴女は今日、ここに来ている」

曽根は小さく微笑む。
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