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快楽の奴隷
第6章 ロマンスの書き方
「ああ。あれね……」

高梨は貝の中の砂でも噛んだような不快を露にした表情を浮かべる。

「あれは編集者がロマンチックなものを書けってうるさいから書いた作品だ」
「でも書けって言われてあれだけのものを書けるんですから、やっぱり高梨さんはロマンスを分かってるってことじゃないんですか?」

卑下する高梨に花純は尊敬の眼差しを向けた。

「あれは悪ふざけで最低の女を書いただけだ」
「最低の女?」
「俺が思い浮かべる最低の女だ。三年前に恋人と死に別れ、ウジウジ拗ねながら生きる女。何をするにも受け身の姿勢で悲劇のヒロインに陶酔している。自分に言い寄ってくる男にも過去への言い訳がないとセックスもできない。そんな最低な女を描いたら編集者から一発OKが出た」
「なんか聞くんじゃなかったって気持ちで一杯です……」

ヒロインに自分を投影して一喜一憂して読んでいた花純は深い溜め息を洩らす。
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