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談戯奇談
第1章 道あんない

[すき間]
ある日大学のレポートを書いていた私は過って筆記具を机の下に落としてしまった。
仕方なしに長く座り込んでいた尻を上げ、床にしゃがんで机の下を覗き込む──
するとどうだろう。
真っ暗な机の下には横幅一センチ程の細長いすき間が縦にできていたのだ。
はて、いつの間に──
私は顎に手を当て首を傾げる。
暫く考えた後、やはりすき間は覗きたい。
いや、覗くものだ──
昔、私の家に居候していた母方の姉の息子。従兄の弥太郎から覗き穴の用途方を叩き込まれていた私は早速そのすき間を覗いた。
小さな机の下に身体をねじ込むように押し込んで、その不思議なすき間に目を凝らす。
するとどうだろう。
私は向こう側に見えた景色に思わず息を飲んだのだ。
細長い縦の筋から茜色に洩れる光り。
その正体がわからず尚更頭を擦り付けるようにして奥を窺えば……
あろうことか、私の身体がそのすき間に吸い込まれていく──
まるでラミネートチュウブのワサビのようにすき間から身体を押し出され、ペラリと和紙の様に平たい肉体が元に戻ったかと思うと目の前には何やら怪しげで古びた寺が存在していた。

