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談戯奇談
第1章 道あんない

僧侶はそれはそれは悲しげな顔をして潰れた芋を持つ手を震わせていた。
これは申し訳ないことをした。
足裏が然程熱くなかったのはその焼き芋が仕上げの段階に入っていた証だったのだろう。
火を消し取り上げる一歩手前で私の足裏の犠牲になったのかも知れない。
「も、申し訳ないっ…」
一言詫びた私は無意識に自分の腰を探った。
「か、代わりと言っては何ですがこれをっ……」
「………」
僧侶は振り返り、私が差し出した物をじとっとした涙目で見つめる。
啜った赤い小鼻からは鼻水が少々垂れていた。
姿からしてこの古びた寺の住職なのだろう。丸い顔立ちに立派な福耳。見た目はまるで坊さんと言うよりはお地蔵様に近い気がする。
「これはもしや……握り飯ではないか……」
「ええ、そうです」
三つあったうちの二つを食べて、一つは小腹が減った時にとズボンのポケットに忍ばせたものだ。
丸い握り飯は形は崩れてしまったが、ラップにくるまれ海苔もしっかり巻かれている。
「握り飯は久し振りだ」
僧侶は奪うように私の手からそれを拐った。

